Understand Sales


セールスを理解する

前回の記事ではマーケティングの意味や捉え方の話を書きました。今回はセールスにフォーカスします。今までの記事で書いた通り、セールスとマーケティングは双方向の理解と考え方の統合が今まで以上に必要になってきていますが、セールスはどのような視点を持てばいいのでしょうか?

 

1. セールスをよく考える

セールスというのは読んで字の如く「販売すること」です。アパレル小売店の販売員やコンビニの店員、自動車部品メーカーの外交販売員など、皆さん自身や周りに多くのセールスパーソンがいると思います。日本ではセールス部署がマーケティングも包括しながらビジネスを行っている企業が大半のため、セールスの力や影響力が非常に強いです。

自分はUX/UIデザインの分野に多く関わってきたため、どうしてもマーケティングよりの思考が強いので、マーケティング側の援護をしがちですが、でもいくつかの起業体験や資金調達体験から、セールスの重要性や影響力を非常に実感しています。いくらアイデアが素晴らしくても、売れなければ存在していないのと同じなのです。そして売れなければお金も入ってこないので、最終的にはビジネス自体できなくなってしまいます。ですが、だからといってセールスが絶対とも思っていません。やはりバランスが重要です。セールスばかり追っかけてるとブランド価値が全くないものになる可能性が非常に高いですし、自転車操業状態に陥る可能性も高いです。

現在のセールスを考えるのにわかりやすいのがEコマースの世界です。

もはやただのEコマース会社ではなくなったアマゾン。オンラインブックストアからの歩みと進化を誰が想像できたでしょうか?

日本で代表的なEコマースといえば楽天やアマゾンですが、ユーザーが購入をするさいに、そこにセールスパーソンは存在していますか?Zozoに小売店と同じ用にアパレル販売員は常にあなたの目の前にいますか?当たり前ですが、バーチャルな空間なので、実際に人はいません。そのかわり、自動返信するチャットやショッピングカート&決済機能など、販売に繋がる動作はすべて集約されており、別に人と話さなくてもモノやサービスを購入することができます。

こうなってくると従来のセールスに必要だったスキルや知識と、Eコマースだけの環境を考えた場合、求められるものが多く変わってきます。ですが本質である「販売すること」という行為は全く変わりません。人が販売するのかシステム(ソフトウエアやアプリ)が販売してくれるのかの違いです。

ネット環境が充実しだす2000年以前は、話す力や根性論のような精神的な部分がフォーカスされ、それらが秀でている人=セールスが得意のような認識が多かったはずです。確かにセールスが上手い人には話が上手な人が多いですが、今の時代、とくにEコマースを中心にビジネスを考えた場合、話が上手なだけではセールスできるとは言い難いです。とにかくセールスするために、昔以上に様々なツールやシステムを使わなければいけないというのが、現在社会の大きな変化の背景になっています。

 

2. セールス≠営業ではない

日本では何かモノやサービスを売るときに「営業する」という言い方でよく表現されます。施工会社の職人さんが仕事を取ってくるのに、得意先に挨拶まわりにいくのも、自分のようなデザイナーが新しいプロジェクトを取りに行くのも「営業しにいく」といいます。これは、しかし、これは非常に大きな間違いというか、日本独特のニュアンスや解釈が多く含まれているため、純粋なセールスを意図したいときには使うべき言葉ではないです。

例えば、広告代理店や製造業、コンサル業などのBtoBの場合、クライアントのところに行って交渉活動や納品をする人達のことを営業と呼んでいます。しかし、実際にこういった役職は、アメリカや欧州、グローバルの人事採用ではAccountといい、営業とは全く違った表現です(やってることはほとんど変わりませんが)。

日本でよく見かける光景。営業マン=セールスと捉えていたら大間違いです。

two men in black suit holding transparent umbrellas walking in the street

BtoBとBtoCで、セールスに対する解釈や規模感が大きく異るため、BtoBでは包括的に活動を網羅する意味合いも含めて、営業という表現を使うのが便利という背景があります。ですが、セールスは販売に特化した部分を指すべきであり、もし営業と呼ぶなら、それはマーケティング活動を行っていることを多く指します。セールスとは本来、プロジェクトやサービスを売るための活動行為なので、顧客と話すためのコミュニケーションが中心であり、そのコミュニケーションに付随した活動、例えばメルマガの記事の中身を書くとか、ECサイトの商品説明を書くとか、セールスコンテンツの中身に関わることまでに留めるべきです。ですが、日本ではほとんどのビジネスシーンにてセールス以外のことまでも網羅されているのが営業なのです。

 

3. 優秀なセールスマン

優秀なセールスマンはウンコでも売るというのをよく聞きます。本当にウンコを売っているわけではないと思いますが、でも、そのぐらい価値のないモノを売れるのが、本当に優秀なセールスマンということです。では、なぜ価値のないモノを売ることができるのか?ずばりマーケティングです。何か矛盾しているような説明ですが、事実として優秀なセールスマンほどマーケティングを実践しています。

コカ・コーラは砂糖が多く含まれており健康に悪いことも知られていますが、それでも持続して売れています。これはセールスだけの力でしょうか?

優秀なセールスマンは、お客さんと話す直接の販売行為以外の部分に非常に時間を割き、戦略的にアプローチしています。それは、ネットワーキングや商品のデモの準備だったり、顧客管理の細かさだったり、様々です。とにかく販売にいたるまでのプロセスが自分に有利になるように動いています。販売というのは、お客さんが購入するという最後の行為なので、その行為がスムーズに行くためにセールスは色んなことをしかけています。ですが、これらはセールス行為なのでしょうか?いえ、マーケティング行為です。セールスというのを「お客さんに商品やサービスを買ってもらうために販売(営業)しにいく」ので、「商品の説明をしにいく」だけのものと捉えていたら間違いです。

 

マーケティングとのバランス

多くのビジネスケースで、会社の利益に直接結びつく、会社の商品やサービスを販売する行為に主に従事している人たちのことをセールスまたは営業マンと呼んでいますが、自分のポジションがセールスなのかマーケティングなのか、はたまた人事でも法務でも関わらず、皆何かしらのセールスをやらないといけないというのがビジネスの本質です。例えば、社内で昇給したい場合、役職に関わらず皆誰もが自分を「売る」という行為をしなければいけません。また、上司が部下をやる気にさせるのも言葉の意味合いは若干変わるもののれっきとしたセールスです。相手に自分が必要としていることをやってもらうのであり、それが結果的に直接数字にでるかどうかの差です。

しかし、数字ばかりを追いかけてしまうと、数字に現れないブランド価値だったり、ブランドの評判・噂などに目が行きません。短期的には結果は出るかもしれませんが、長期的には自らのブランド価値を落としていくような行為に繋がってしまうので、すると持続性のあるビジネスにはなりません。やはりセールスだけを追いかければいい話ではないのです。

セールスとマーケティングのバランスをどう取るかは、セールスとマーケティングの両方の領域の重要性をわからなければ判断が難しいです。皆が両方の役職を経験しなければいけないわけではないですが、肝心なのは、セールスをやるためにはマーケティングの理解がないと非常に難しいということです。逆にマーケティングをやるためには、極端な言い方ですが、セールスの経験がなくてもできてしまうのです。

お金を直接生み出すのはセールスであり、確かに重要なポジションなため、最優先されるべきではありますが、持続性を考えたり、社会へのインパクトを意識する必要がある今の時代ではマーケティングへの配慮並びにバランスの取り方が非常に重要です。