Nike & Adidas


NikeとAdidasの比較

これまではマーケティングとセールスの言葉の解釈や機能的な説明をしてきましたが、自分が実際に働いてきて実際に見た内容をベースにマーケティングがどのように作用するのか、具体的な例をもって説明していきます。その例とはNikeと Adidasです。

 

1. Nike vs Adidas

皆さんも知っているスポーツブランドのNikeとAdidas。ご存知の方も多いかと思いますが、NikeはアメリカのPortland、AdidasはドイツのHerzogenaurachと地方都市で誕生しています。自分は両方の本社で働いたことがあり、PortlandもHerzogenaurachも知っていますが、ドイツのHerzogenaurachのほうがものすごく田舎です。そして、ブランドができた歴史はNikeが1964年、 Adidasが1949年とAdidasのほうがブランドの歴史は長いです。

Nikeは90年代にはすでに他のスポーツブランドと圧倒的な売上の差をつけていました。

しかし、後発組のNikeが実はAdidasよりも売れており、マーケットシェアも取っているのです。普通に考えると先にできた会社のほうが、全ての部分でアドバンテージがとれるはずなので、市場支配も優位だと考えがちですが、NikeとAdidasのケースでは当てはまらないのです。

 

2. Nikeのマーケットをリードする姿勢

Nikeがこれほどまでに市場を独占できている大きな理由はずばりマーケティングです。このマーケティングにはキャンペーンや広告といった対市場に対する動きだけでなく、社内的な部分にもあてはまります。まず、両社のそれぞれの商品に見た目の違いは多くあれど、機能的な部分としてはほとんど同じです。同じというとブランド愛好者に失礼ですが、着る、歩く、走る、蹴るなどいった動作目的を考えた場合、NikeもAdidasも差はたいしてありません。差を意識するのは0.01秒の世界で争っているプロスポーツ選手であり、一般消費者にとってNikeとAdidasの商品に機能的な差の影響はほとんどないのです。自分に合ってるかどうか。好みかどうか。ブランドが掲げているビジョンやミッションに共感できるかどうか、それだけです。

驚きなのが、AdidasがEコマースを立ち上げたのはFoot Lockerよりも遅いという事実です。

商品自体に差がほとんどなければ、どうやって違いが出るのか?まさにマーケティングです。人が欲しい、買いたいと思うかどうかです。Nikeがなにより一番上手なのは、業界の中で常に先頭を走る覚悟をもって様々な部分でリードしている部分です。Nikeはすでに1999年にサイトを公開し、Eコマースも始めています。驚くのがAdidasがEコマースを始めたのは2006年だということです。今では当たり前の商品のカスタマイズサービスやトレーニングを教えるサービスもすべてNikeが最初です。

なぜ最初にできるのか?答えは簡単です。常にマーケティングを意識しているからです。これはNike本社やNike中国でNikeの多くのプロジェクトに関わった経験からとても実感しました。役員メンバーやマネージメントメンバーのほぼ全員がマーケティングのプロなのです。商品を作る段階から、様々なことを仕掛けていくのがNikeは非常に上手いというのをプロジェクトを通して実感しました。

対してAdidasはどうか。もちろんマーケティングもNikeに負けないものはありますが、思考回路として商品重視になっている傾向が強い感は否めません。これはAdidasがドイツ生まれというのが大きく影響しています。日本とドイツでは製品の品質をあげるというクラフトマンシップの部分では似ているとよく言われますが、まさにドイツ生まれのブランドの多くは商品の機能や品質を高めることに長年重きが置かれており、ユーザー中心のデザイン思考にはなっていないのです。プロダクト重視になってしまうと自然と機能性やデザインをメインに訴求していくことになります。ですが、競合と商品自体やデザインに差がない場合、他の部分で差を出していかなければ売れません。Adidasはこの部分で間違いなくリードできていないのです。

また、根本的なマーケットの広げ方の考え方に両者では差が最初からついています。

 

3. アメリカとドイツという地理的・文化的背景の違いがもたらす影響

Nikeはアメリカ発祥の企業で、Adidasはドイツ発祥の企業ですが、この時点でマーケティングに圧倒的な差があるのです。マーケティングとはこの記事でも書いている通り、商品が「売れる仕組み」をつくる活動全てを指しますが、マーケティングに関わっている人材の知覚体験そのものが大きく影響します。

New Yorkのタイムズスクエアのような場所はヨーロッパではロンドンにしかありません。

アメリカにはNew Yorkのような大きな市場が自国内にいくつも点在しており、国が広いのでコミュニケーションの浸透や物流を効率よく考える必要があります。また国内に人口1,000万人を超える州が多くあり、それぞれの州の中でも大都市がいくつも存在しており、都市間でも競争力が生まれています。対してドイツは、New Yorkのような市場規模はなく、Berlinでさえ300万人都市です。ヨーロッパ全体で見ればロンドンが最も大きな都市ですが、ドイツではないので当然言語も文化も全く異なり、ドイツとは違うマーケットです。

ビジネスや商品を開発する段階でどの視点で物事を捉えているのか、マーケティングにおいて非常に重要です。1,000万人規模(New York)と300万人規模(Berlin)のそれぞれの都市に対しての情報と商品の届け方(マーケティングと物流)は大きく異なります。300万人規模の方法では1,000万人規模の対応はまず無理です。ですが、逆は可能です。大は小を兼ねると良くいいますが、まさにそのとおりです。

市場規模の差だけではなく、文化としてオープンなのかどうかも非常に大きな影響があります。アメリカと比較すると、ドイツはどうしても閉鎖的であり、これは言語的な部分が大きく関わっていますが、文化的背景として多様性に寛大かどうか、これはマーケティングの思考回路と密接に関連しています。

 

だからといってアメリカ企業がなんでも一番というわけではない

数字だけ見ると、確かにNikeのほうが売れており、ビジネスとしては勝っています。また、GAFAに見られるようにアメリカ発のグローバルブランドは数多く認知されており、世の中の多くの人が持っている印象として、アメリカブランドが強いというイメージがあります。しかし、なんでもかんでも良いというわけではありません。

Nikeもこれまでに不買運動があったり、人種差別問題に直面したりと、数字で出している結果の裏には様々な問題も抱えています。それはAdidasにも言えることですが、大事なのはアメリカ的な視点や思考回路、特にマーケットの捉え方や競争力の理解を持てればということです。ビジネスには勝つ(売れる)か負ける(売れない)しかなく、限られたパイの奪いあいなので、アメリカのように戦略慣れしている土地で生まれ育つ企業文化とそうでないところでは思考回路の差が明確なのです。こういった背景がマーケティングに大きな影響を及ぼしています。